芦辺拓『名探偵・森江春策』感想

芦辺拓『名探偵・森江春策』読み終わった。
これは『少年は探偵を夢見る』の改題になります。名探偵の森江春策が名探偵になるまでの軌跡を時系列で追いかけていく連作短編集です。

・少年は探偵を夢見る
小学生の森江春策が不思議な体験の謎を解き明かし探偵としての片鱗を見せるという内容です。殺人事件などではなくファンタジーのような謎にしたのはリアリティがあります。確かにこんな体験があれば探偵や推理小説に夢中になるでしょう。ミステリとしては少し微妙。特に『蜘蛛男の謎』などは成立しないと思います。

・幽鬼魔荘殺人事件と13号室の謎
部屋の消失ミステリです。このパターンはもう解がほぼ決まっているので分かりやすいです。しかし、これも成立に難があると思います。

・滝警部補自身の事件
なかなか大胆なトリック。このトリックは結構アクロバティックで面白いと思うのですが、滝警部補のパートと森江春策のパートが交互に進むのでいまいち盛り上がりに欠けます。交互に進む理由も勿論ちゃんとあるのですが。

・街角の断頭台
余談ですが、昔このトリックを思いついてミステリを書こうとしたことがあります。まあ文才がないので筆が一向に進まなかったのですが。

・時空を征服した男
なかなか練られたトリック。量子力学を背景にして話が進んで、根本的なトリックは相対性理論に関係(もっと言えば否定)しているところも面白い。一部トンネル効果の解説が間違ってるところがあると思う。(例えば半導体でトンネル効果が問題になるのは主にゲートリーク電流でありサブスレッショルドリーク電流はあまり関係がない。)
連作短編の最後の仕掛けは量子力学やSFが好きな作者らしい遊び心あるものだと思います。ネタバレになるので以下伏字にしますが、他の短編がほぼ全て犯人が自供しているので犯人は一意的に定まっているのですが、これが探偵の推理だけで逮捕されていたらどうでしょう。時間と空間を自由に行き来できるタイムマシンが存在している状態では推理は成り立たず、犯人は無限に膨らむことになります。このことに最後に探偵が苦悩するという結末も面白かったのではないでしょうか

探偵小説に夢中の小学生・森江春策は、ある夕刻に見かけた洋館で、謎の紳士と少女をめぐる不思議な事件に巻き込まれ、初めて"推理"を披露したーその後も密室殺人に首なし死体、鉄壁の不在証明などの多種多様な不可能犯罪に遭遇する彼が、平凡な少年から名探偵へと成長を遂げていく過程を年代記形式で描く本格ミステリ読者必読の連作短編集。『少年は探偵を夢見る』改題文庫化