今村昌弘『屍人荘の殺人』感想

今村昌弘『屍人荘の殺人』読み終わった。
・第27回鮎川哲也賞受賞
このミステリーがすごい!2018年版第1位
週刊文春ミステリーベスト第1位
・2018本格ミステリ・ベスト10第1位
・2018年本屋大賞ノミネート
というDHCかと思うほど各賞を総なめにしている本作。ミステリブログを名乗っておいて、この本の感想を書かないのはどうかと思いましたので書きます。普段持ち運びが面倒なのでハードカバーの本は買わないのですが、そんなことも言っていられません。

さて本作の感想を書こうと思ったのですが、あらすじを見ると、かなり話の大筋が伏せてあるので内容に触れようとするとネタバレせざるを得ません。よって以下ネタバレを含みます。ただ結末には触れないように書くので、ちょっと内容を見てから買うなり借りるなり決めたいという方は見ていただいても大丈夫です。






まず、このミステリの特筆すべきところというのはクローズドサークルの作り方にあります。クローズドサークルというのは吹雪の山荘とか孤立した島のように外界と接触が断たれたロケーションのことです。
これにより外部犯を考慮する必要がなくなり容疑者が絞り込みやすくなること、警察の介入を防ぎ犯人の犯行を完遂させることという、いくつかのミステリ上の利点があります。
本作はバイオテロによってゾンビ化した人間に館の周囲を囲まれることにより、クローズドサークルを作成しています。かなり突飛な設定ですが、本格ミステリは現実味が乏しくとも、小説内でのルールに則って謎解きをするのであれば問題ありません。
本作もゾンビ化する条件が作中で示されており、そういう体系内で論理的であればミステリとして成立します。この点で言えば一種のSFミステリ的な要素もあると言えるでしょう。
そして、『屍人荘の殺人』の素晴らしいところは、クローズドサークルを作るガジェットの一つのゾンビが荘内部の殺人にも利用されているところです。これは吹雪の山荘で足跡が残っていないから密室殺人だというのと似ていますが、それよりももっと本質的なところで物語に絡んでいます。
ただの突飛な設定というだけで終わらないのが本作の深みを増しているのは言うまでもありません。

そしてゾンビが襲ってくるというサスペンス的なハラハラ感がどんどんページを捲らせてしまいます。普通のクローズドサークルであれば内部の猟奇犯の恐怖だけですが、外部に人間よりも凶悪な存在がいるのですから二重の恐怖です。
さらにこのハラハラ感は(スマホで読むときは左上のアイコンなどでリーダー表示にしてください)重要人物が早々に退場するという展開により増幅されます。誰が次の餌食になってもおかしくないのですから。例を出せばアニメ魔法少女まどか☆マギカ』や『機動戦艦ナデシコ』のマミやガイが早々に退場した効果と同じです。

もちろんクローズドサークルの設定だけではなくミステリそのものも、しっかり論理的で意外なトリックが使われています。(結末には触れません)
また非常にリーダビリティーが高いです。登場人物が多いですが、キャラクターに関連付けられた名前が付いているので覚えやすいですし、風景や建物の描写など煩雑になりやすいところも分かりやすく書いています。
作中では出てきませんが、比留子の元ネタは日本神話に登場するヒルコでしょう。比留子の『呪われた子』という異名に合致しているように思います。葉村はハとソンでワトソンかなあ。ちょっと自信がありません。

最近の鮎川哲也賞は少しレベルが低いように感じていましたが、『屍人荘の殺人』はとてもハイレベルな作品でした。非現実世界との軽い融合は本格ミステリの新しいスタンダードになりえるかもしれません。というのも、携帯電話やインターネットなど通信手段が発達した現代はクローズドサークルを作り出すのにも一苦労だからです。ちなみに珍しいクローズドサークルで私が思いつく作家さんは石持浅海さんで、例えば『月の扉』は飛行中の旅客機内、『アイルライドの薔薇』は紛争地帯を舞台にしています。
月の扉 (光文社文庫)
アイルランドの薔薇 (光文社文庫)

また、このミスや文春ミステリーベストの上位作品は(小説としては優れていても)ミステリとしてあまり優れているとは思えなかったのですが、今回に関しては杞憂だったようです。また本屋大賞もミステリでは東川篤哉謎解きはディナーのあとで』が受賞して、悪くはないですが大賞かあ…うーんっと唸っていたので、悪印象だったのですが少し見直しました。

屍人荘の殺人

屍人荘の殺人

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け―。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった…!!究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?!奇想と本格ミステリが見事に融合する選考委員大絶賛の第27回鮎川哲也賞受賞作!