ジョイス・キャロル・オーツ『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』感想

ジョイス・キャロル・オーツ『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』(原題:The Corn Maiden and Other Nightmares)読み終わった。
ジョイス・キャロル・オーツ村上春樹とともにノーベル文学賞の候補に挙げられてるアメリカの女性作家です。ミステリのようなファンタジーのようなホラーのような奇妙な味の短編を得意とする作家で、社会的な問題を小説に取り込むことが多いのが特徴です。本作は彼女の自選短編集になります。

読んでみて全体的な感想を言えば、最後が尻切れとんぼで終わるような短編が多いです。解説には余韻があるとか、読者が「綴られなかったその後の物語を引き継ぎ、思いを馳せ、不思議な残響に浸り続け」られると好意的に評されているが、ミステリが好きな私は、最後放り投げたような感じがして、とても座りが悪い。

個別に作品を見ていきたいと思います。なお訳本で読んだので作中の文章表現には触れず、ストーリーについての感想をメインに書きます。

とうもろこしの乙女 ある愛の物語(原題:The Corn Maiden)
表題作で170ページほどの中編。猟奇的な少女ジュードら3人がマリッサという少女を拉致監禁するというサスペンス。ミステリの誘拐ものと同じように犯人が捕まるのかや被害者は助かるのかというスリルは味わえる。
しかし犯人の少女ジュードの残虐性が少し胸糞悪いのも事実で、それは狂気を上手く書けているとも言えるのだが、ジュードにも情状酌量の余地はあるというような描写があるのは好きになれない。社会派の部分が悪い方に出ていると思う。
最後の急なハッピーエンドも予定調和が過ぎてあまり好きではない。

ベールシェバ(原題:Beersheba)
中年男ブラッドと彼の娘ステイシーとの息詰まる二人のやり取りが印象的なサスペンス。原作はミステリファンには馴染みの深いEQMM (Ellery Queen‘s Mystery Magazine)に収録されている。
2人の鬼気迫る言い合いは読ませるが、これも最後が放り投げた形になっている。私のようにプロットを重視する者にはだから結局どうなったんやと思ってしまう。

私の名を知る者はいない(原題:Nobody Knows My Name)
9歳の少女ジェシカが赤ちゃんに対する敵対心を見透かすように不思議な猫が現れる。訳者曰く、西洋では猫と赤ちゃんを2人きりにしてはいけないという迷信があるらしい。
これは妹ができた時の姉の感情がうまく書けていると思う。幻想小説とホラーが合わさった雰囲気も薄気味悪い。

化石の兄弟(原題:Fossil-Figures)
豪胆な兄と気弱な弟という対比的な双子の兄弟の人生ドラマいい話になっているとは思うのだが、どうにも唐突な感じが拭えない。結末に至るまでをバッサリ省くことで読者に想像させようということだと思うのだが、それは作者の怠慢ではないかと思ってしまう。

タマゴテングタケ(原題:Death-Cup)
無法者の兄を真面目な弟が殺そうとタマゴテングタケのスープを食べさせたりするミステリ。これもEQMMが初出。
これはなかなか面白かった。弟が兄を憎み殺そうしたにもかかわらず、兄がプールで溺れたときに結局助けてしまう。論理的には不合理だが、実際人間は殺そうと思っていたほど憎んだ相手でもそんな簡単に見捨てられない。ラストは悲惨だが救いがある。

ヘルピング・ハンズ(原題:Helping Hands)
未亡人となったへレーネがリサイクルショップの戦争帰還兵ニコラスに恋をするラブロマンス。女性のちょろい部分や自己中心的な部分がすごく良く書かれている。さすが女性作家。ニコラスに弄ばれたときはスカッとしてしまった。しかしフェミニストや人権保護団体など色んなところに敵を作りそうな短編である。

頭の穴(原題:A Hole in the Head)
美容整形として頭蓋穿孔を頼まれた美容整形外科医のルーカスが市販のドリルで穴を開け、依頼者を殺してしまうという話。コメディかと思うが、真面目に書いていて逆に笑ってしまう。これも最後は放り投げているので、ストーリーが本当に市販のドリルで殺すというただのスプラッターになっている。
ミステリ読者として気になるのはクロロホルムをハンカチに浸して嗅がせたくらいでは昏睡させることはできない。

身も蓋もないが、プロットや論理性を重視する私のような人が読むべき小説ではないなと思った。これがノーベル文学賞候補なのだから文学という者は本当にわからない。もっと面白い作品が日本にたくさんあると思う。言語の壁だろうか。

とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 (河出文庫)

とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 (河出文庫)

美しい金髪の下級生を誘拐する、有名私立中学校の女子三人組(「とうもろこしの乙女」)、屈強で悪魔的な性格の兄にいたぶられる、善良な芸術家肌の弟(「化石の兄弟」)、好色でハンサムな兄に悩まされる、奥手で繊細な弟(「タマゴテングタケ」)、退役傷病軍人の若者に思いを寄せる、裕福な未亡人(「ヘルピング・ハンズ」)、悪夢のような現実に落ちこんでいく、腕利きの美容整形外科医(「頭の穴」)。1995年から2010年にかけて発表された多くの短篇から、著者自らが選んだ悪夢的作品の傑作集。ブラム・ストーカー賞(短篇小説集部門)、世界幻想文学大賞(短篇部門「化石の兄弟」)受賞。