柳広司『贋作『坊っちゃん』殺人事件』感想

柳広司『贋作『坊っちゃん』殺人事件』読み終わった。夏目漱石の『坊っちゃん』を底本として、その世界観を受け継ぎミステリーへと仕立て上げたパスティーシュミステリーである。

本作では坊っちゃん山嵐が東京に戻った直後に起こった赤シャツの自殺が本当は殺人事件だったのではないかと、探偵風情となった坊っちゃんが事件を解決するという流れになっている。

文体も夏目漱石のものを模写しており、まるで坊っちゃんの続きを読んでいるような錯覚がある。また伏線が夏目漱石の『坊っちゃん』の中にあるので、あの台詞をこんな風に解釈したのかという面白味がある。解説にも書いてあるが、読み終わった後には、『坊っちゃん』を読み返したくなるだろう。まだ本作を読む前には『坊っちゃん』を読んでいるとより楽しめる。
夏目漱石 坊っちゃん

以下少しネタバレ


本作の特徴は、坊っちゃんの陰湿な田舎者と喧嘩っ早い江戸っ子という『坊っちゃん』における対立軸が、当時の時代背景を反映した社会主義と自由民権思想に変化させているところである。

ここは少し賛否が分かれるかもしれない。『坊っちゃん』自体は堅苦しく読むものではなく、あくまで娯楽の読み物だったが、本作は、坊っちゃんの生き生きとした言動は失われていないものの社会的の側面がやはり感じられる。その飛躍は面白いが、パスティーシュとしてはどうだろうか。

夏目漱石パスティーシュミステリーは山ほどあるが、文体模写までやりきったミステリーで他にオススメなのは奥泉光の『吾輩は猫である殺人事件』がある。文字通り『吾輩は猫である』のパスティーシュで猫が探偵役として香港を闊歩する冒険ミステリー小説である。

四国から東京に戻った「おれ」―坊っちゃんは元同僚の山嵐と再会し、教頭の赤シャツが自殺したことを知らされる。無人島“ターナー島”で首を吊ったらしいのだが、山嵐は「誰かに殺されたのでは」と疑っている。坊っちゃんはその死の真相を探るため、四国を再訪する。調査を始めたふたりを待つ驚愕の事実とは?『坊っちゃん』の裏に浮かび上がるもう一つの物語。名品パスティーシュにして傑作ミステリー。