木元哉多『閻魔堂沙羅の推理奇譚』感想 - 心温まる本格ミステリ

木元哉多『閻魔堂沙羅の推理奇譚』読み終わった。第55回メフィスト賞受賞作です。最近はメフィスト賞はノベルスじゃなくて講談社タイガで出るんですね。講談社のレーベルのミステリは全部タイガに押し込まれてる気がします。第2弾の感想は以下から。

まあそれは良いですが、閑話休題して本作の内容に入っていきます。本作は死後の世界で閻魔大王の娘に、死者にまつわる謎を推理して正解したら生き返らせてやるという取引を持ちかけられ、10分で推理するというミステリになっています。

基本は殺された人の犯人当ての謎ですが、一部では失踪した息子の居場所に関する謎もあります。そしてこの作品は単なる犯人当てのミステリではありません。

この小説内では閻魔大王の娘は人間界の行い全てを完全に把握しているということになっています。よって形式としては、全てを知っている神様が小説内に存在する麻耶雄嵩の『神様ゲーム』『さよなら神様』や、犯人をたちどころに教えてくれる鏡がある森川智喜の『スノーホワイト』に似ています。

不可謬の存在なので、閻魔大王の娘が犯人を指摘できると宣言すれば、それが前提となり必ず犯人が指摘できるような推理でなければなりません。つまりある手掛かりを嘘手掛かりだと見なして犯人を不定にすることは出来ないということです。

ただ挙げた3作と違って犯人の名前は前もって明らかになっていないので、手掛かりを曲解して他の人を犯人にしてしまう可能性はあります。

『さよなら神様』では犯人が確定しているので、ありそうもない犯人を無理やり犯人に仕立て上げるトリックが面白味の1つでもありましたが、本作ではそういうわけにはいきません。

閻魔大王の娘が推理できると言っているから、その中でも蓋然性の高いものが実際の真相であることは保証されているとみなして推理することになります。

嘘手掛かりや探偵の存在など、この辺りは本格ミステリでよく問題になる領域ですが、上手い切り抜け方だなと思いました。


個別に短編を見ていきます。

緒方智子 17歳 女子高生 死因・絞殺
小説設定の披露の意味合いが強い短編ですが、伏線および推理もしっかりと出来ています。この作品だけではないですが、閻魔大王の娘と会って生き返らされた後、みんなが前向きに人生を歩んでいく描写がとても良いですね。

浜本尚太 27歳 会社員 死因・凍死
ミステリのネタ的には世間にかなり知れ渡っている一発ネタが使われていますが、これもやはり生き返った後の物語が印象的です。仕事で落ち込んでいる人も頑張ろうと勇気付けてくれる短編です。ミステリなのに。

門井聡子 82歳 無職 死因・老衰
こちらは犯人当てでなく、失踪した息子の行方を推理する短編です。この小説内でも一番いい話ですね。新人作家なのですが、昭和の家父長制の描写とか、虐げられる妻の心理描写とか凄く良く描けているなと思います。

君嶋世志輝 20歳 フリーター 死因・撲殺
メインが犯人当てというよりも、なぜ兄は弟に不可解な電話を掛けたのかが謎の中心となっています。解決は笑ってしまう感じですが、なかなか面白いです。


最近のメフィスト賞にはない普通のミステリですがとても楽しく読みました。ミステリをあまり読まない人にもオススメできるいい作品です。

閻魔大王の描写を短編ごとのキャラクターの視点で描かれていたり、非常に細かいところまで拘って作ってある小説だと思います。そしてミステリに留まらず、読者に元気や勇気を与えてくれるような読後感がいいですね。善行を積んでいこうと改めて思わせてくれました。

閻魔堂沙羅の推理奇譚 (講談社タイガ)

閻魔堂沙羅の推理奇譚 (講談社タイガ)

俺を殺した犯人は誰だ?現世に未練を残した人間の前に現われる閻魔大王の娘―沙羅。赤いマントをまとった美少女は、生き返りたいという人間の願いに応じて、あるゲームを持ちかける。自分の命を奪った殺人犯を推理することができれば蘇り、わからなければ地獄行き。犯人特定の鍵は、死ぬ寸前の僅かな記憶と己の頭脳のみ。生と死を賭けた霊界の推理ゲームが幕を開ける―。