長沢樹『リップステイン』感想 - 現実的で非現実的な青春本格ミステリー

長沢樹『リップステイン』読み終わった。

著者の長沢樹さんは映像制作会社勤務という経歴の持ち主で、映画や芸術に関係する舞台を得意にしている作家さんです。

横溝正史ミステリ大賞を受賞した『消失グラデーション』に始まる樋口真由シリーズも、高校の映画研究会を舞台にしたミステリーで、映画作品にむけて努力したり挫折したりする高校生の青春ミステリーです。今回も映像専門学校「東京工科芸術学院」を舞台としたミステリーで、卒業制作のために少年少女が奔走する姿がリアルに描かれています。

青春ミステリーといえば、米澤穂信さんの「氷菓」を始めとする古典部シリーズのような初々しくて瑞々しいものを想像される方が多いと思いますが、長沢樹さんの青春ミステリーは、かなりドロドロした人間関係が特徴で、言うなれば「ゆるゆり」ではなく「citrus」のような感じでしょうか。でも実際の世界は日常系アニメのような仲良しこよしはないので、それがまたリアリティを下支えしているとも言えます。(割とさっぱりとした『上石神井さよならレボリューション』という作品もあるが。)

ここで「ゆるゆり」と「citrus」を例に出したのは意味があって、長沢樹さんのミステリーには『ジェンダー』というもう一つのキーワードがあると思います。詳しく書くと過去作のバレになってしまうので、気になった方は消失グラデーションを読んでみてください。

ではリップステインの内容について言及します。

あらすじ
僕は渋谷の街角で、殺人鬼を追うきみと出会った。ある時は「武者修行中」と笑い、またある時は傷だらけで電話してくる。世間が震える連続事件の現場に必ず現れる美少女。君は一体、何者なんだ?張り巡らされた謎、緊迫のクライマックス。ストーリーテリングの手腕が炸裂する、青春ミステリーの新機軸!

リアリティがあるといいましたが、本作では夜叉使いという地夜叉を操って他人の悪意を吸い取ってしまう女子高生が登場します。かなり非現実的なキャラクターで、リアリティもへったくれもないと思いますが、その怪異を現実的に解釈しようとする試みもなされており、最後は読者にその存在を委ねられています。

個人的には、完全にどっちつかずの方が神秘的でいいかなと思っていたので、最後のサーモグラフィーは怪異に寄せすぎでは?と思いましたが、まあそれも現実的な解釈は可能ではあります。

ミステリーのパートですが、犯人が限られるので、犯人がわかりやすくなっています。またあるトリックが仕掛けられていますが、これも長沢さんの作品には有りがちなので、気をつけて読んでしまうとどうしても分かりやすいのは否めません。

ただ長沢樹さんの小説を読んだことがない人にはオススメできますね。

リップステイン

リップステイン