山本弘『怪奇探偵リジー&クリスタル』感想 - 古典SFや特撮の薀蓄たっぷりのエンターテイメント

山本弘『怪奇探偵リジー&クリスタル』読み終わった。

山本弘さんはミステリー界では『僕の光輝く世界』が本格ミステリ大賞の候補となったことが有名だが、SFの分野では、そのはるか昔から著名な作家であり、『去年はいい年になるだろう』では星雲賞を受賞している。

また「と学会」の初代会長としての顔も持ち、私が山本弘さんの著書をはじめて読んだのも「と学会」関連の本だった。それは柳田理科雄空想科学読本』を批判した「こんなにヘンだぞ!『空想科学読本』」であり、当時は中学生だった私は『空想科学読本』のファンだったので、何を言っているんだこいつはという冷ややかな立場で読んでいた(今でも一部分はおかしいと思っているが)。その本は、柳田理科雄さんを痛烈に批判していたが、そのモチベーションは山本弘さんの特撮に対する愛だったのではないかと思う。

本作は、古典SFや過去の名作の特撮映画などの蘊蓄がたっぷり入った1930年代を舞台にしたSFミステリである。怪奇探偵となっているのは(これはネタバレしてもいいと思うが)主人公のリジーが不死身の体を持っており、クリスタルが透明人間であるからだ。

人間の姿をしていても正確には人間でない2人が人間世界で暮らすには色々な困難があるが、それを2人で助け合って乗り越えていく様子も描かれており不覚にも感動してしまう。ミステリー要素は若干低いが、アメコミ的な雰囲気と、人間よりも人間的な2人の成長を堪能して欲しい。

各短編の感想を簡単に。

あらすじ
第二次大戦前の1938年。ロサンゼルスに事務所を構える、女性私立探偵エリザベス・コルト(通称:リジー)と、助手の少女クリスタルのコンビが、街を震撼させる奇怪で残忍な事件に、特殊な身体と知性を駆使し、勇敢に立ち向かう。パルプマガジンの表紙絵にそっくりな惨殺死体、幻の特撮映画上映中に消えた人々、甦る中世イギリスの錬金術師の魔法、謎めいたタイムトラベラー、異空間から紛れ込んできた凶獣の暴走…。型破りな謎と解決法が痛快で楽しい5篇を収録。

まっぷたつの美女
ミステリらしいミステリ。ここでは(もうネタバレしてしまったが)2人の素性が明かされる。1ページ目の「針金一本しか身につけていない十七歳の娘」という書き出しで一気に引き付けられますね。

二千七百秒の牢獄
存在しない技術を使用した特撮映画が現代に発見されたという謎が最初に提示される。一方、過去では映画にリジーたちが取り込まれるという怪奇が出現し、それをクリスタルたちが解決する。この2つの謎のリンクが楽しい作品。

ペンドラゴンの瓶
ジーの出自に関する謎が解かれる。ここはやはり最後の場面が印象的ですね。泣かせてやろうという露骨な書き方でなく、さらっとしていますがそれが逆に感動的です。

軽はずみな旅行者
この短編集の中で一番面白かったです。ミステリというよりもSFとしては傑作短編ではないでしょうか。タイムトラベルをベースにしており、古典SF界に対するリスペクトを強く感じます。

異空の凶獣
こちらもSFっぽい作品。クリスタルの過去に触れられ、彼女の成長が描かれたいい短編なのですが、これが最後の短編というのはどうなのでしょう。若干尻切れとんぼ感が否めません。異空の凶獣とペンドラゴンの瓶を最期の2編にすれば良かったのでは?と思います。

怪奇探偵リジー&クリスタル (角川文庫)

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