高林さわ『バイリンガル』感想 - 目新しい試みのあるミステリーだが…

高林さわ『バイリンガル』読み終わった。こちらは第5回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞というミステリ作家の島田荘司さん1人が審査員を務める個性的な賞の受賞作になります。

まずはあらすじを引用します。

アメリカの大学都市で30年前に起きた母娘誘拐事件―。複数の死亡者を出した凄惨な事件で生き残ったのは、当時3歳の少女・ニーナ。事件のあった町を避けるように日本に帰ってきた永島聡子は、ある日、一人息子の武頼が連れ帰ってきたニーナを名乗る女性に、事件の記憶をためらいながらも語りはじめる。解決したはずの事件の真相は、30年の時を経て衝撃の様相を呈し―。画期的な新暗号の誕生!知性を刺激する正統派本格ミステリー。島田荘司選第5回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。

いわゆる誘拐ものですが、30年前のことを語り合うという形式を取っているため、もう助かるか助からないかという結末自体は分かっており、その部分でのスリルはありません。ただ結末に至るまでのストーリーは読者には不明ですので、そこでは読ませる物語が展開されています。

特に親子の愛情という点が印象的です。親子というのは誘拐されたニーナと涼子、武頼と聡子の絆もそうですが、さらにミステリー的な仕掛けにより、見えていなかった親子の絆が明かされます。

物語としては面白いです。ただミステリーとして見たときはどうでしょうか。本格ミステリとして評価されていますが、本格かどうかと言われると疑問です。むしろ伏線にあまりこだわっていないサスペンスのような読み口でした。

また最終的にはポジティブな雰囲気で終わる小説なので読後感は悪くないですが、私はどうも主要登場人物、とくに語り手の聡子があまり好きになれませんでした。そういうこともあり、イマイチだったかなという感じです。

以下完全なネタバレを含みます。





まず本作は暗号ものとあらすじで述べられていますが、がっつりとした暗号ではなく、ニーナの言葉を言語学的解釈することにより解かれる暗号になっています。言語学とミステリーの組み合わせは新鮮です。しかし問題があります。それはアメリカが舞台だということです。

アメリカが舞台なので日本語で書かれているニーナのセリフを英語に一回訳すという操作が必要になるのですが、これは謎解きで初めて訳が明らかになるのでアンフェアなのは間違いないでしょう。

そもそもを言えば、この小説は日本語で書く意味があんまりなくて英語で書くべき小説だと思います。英語なら完全にフェアになるでしょう。ただ日本語ですら、明らかに怪しいので一発でネタが分かると思いますが。もっと言えば英語と日本語混じりの小説でも良いんじゃないかと思います。かなり挑戦的ですが本格ミステリなら許容されるはずです。

また暗号を無視した場合、犯人につながる伏線がただ1つしかないので少し弱いのも事実です。そういうこともあってサスペンス的だと感想を書きました。本格ミステリを読もうと思っている人にはあまりオススメできないかなと思います。

バイリンガル (光文社文庫)

バイリンガル (光文社文庫)