竹本健治『涙香迷宮』感想 - 超絶技巧、執念を感じる本格暗号ミステリー

竹本健治『涙香迷宮』読み終わった。

囲碁殺人事件』『将棋殺人事件』『トランプ殺人事件』のゲーム三部作の名探偵である天才囲碁棋士の牧場智久を主役に据えた「連珠」をテーマにした、いわば『連珠殺人事件』とも言うべきミステリーである。

連珠とは、いわゆる五目並べのことで、黒岩涙香が競技として確立したゲームである。タイトルにあるとおり、連珠以外にも黒岩涙香の生涯に焦点を当てている。その涙香考は、一種の評論とみなせるほどしっかりしたものであり、本作は本格ミステリ大賞小説部門の受賞作であるが、評論部門にノミネートされてもおかしくない。

しかし小説であるから、史実としての涙香の生涯と創作の部分がうまく入り混じっている。涙香の残した暗号が謎の中心となるが、涙香ならこういう暗号を残しかねないなと思わせるほど質の高い暗号である。その暗号は、48首のいろは歌である。いろは歌を48首も作ること自体がキチガイじみている(褒め言葉)が、それを暗号に仕立てているのが脅威だ。

しかしながら、Amazonなどでレビューを見てみると賛否両論という感じで、そんなにスコアが高くない。これには理由があると思う。その大きな理由が暗号と殺人事件が切り離されていることではないか。

暗号を解読することによって、おまけ的に付属していた殺人事件がなし崩し的に解決する。殺人事件には暗号は別に関係がない。殺人事件のあるミステリーを読みたかった人にとってはガッカリするのだろう。

しかし、そんな些細なところは気にならないほどの暗号の完成度に圧倒される。尖った作品なのは間違いがないが本格ミステリが好きな人には、こういう攻撃的な作品は気にいると思う。このミステリーがすごい!の1位も受賞しているが、このミスが好きな人にはいまいちかもしれない。

あらすじ後ネタバレ

明治の傑物・黒岩涙香が残した最高難度の暗号に挑むのはIQ208の天才囲碁棋士・牧場智久!いろは四十八文字を一度ずつ、すべて使って作る日本語の技巧と遊戯性を極めた「いろは歌」四十八首が挑戦状。

涙香迷宮 (講談社文庫)

涙香迷宮 (講談社文庫)

ちょっと残念だったなと思うのは、十九路盤を埋め尽くす詰め連珠が完成していなかったことですかね。まあこれは難しいので仕方ないのでしょう。また解かれない謎については、「クビにする」という意味ですかね?