竹本健治『ウロボロスの偽書』感想 - あやふやで茫洋としたアンチミステリー

竹本健治ウロボロス偽書』読み終わった。

竹本健治さんといえば『匣の中の失楽』のようなアンチミステリーが有名ですが、本作も『匣』のような雰囲気のアンチミステリーになっています。と、書いたのですが実は私は『匣の中の失楽』を読んでいません。それどころか『黒死館殺人事件』『ドグラ・マグラ』『虚無への供物』の四大奇書全部読んだことがありません。四大奇書読んでもないやつが偉そうにミステリの感想書くなカスと言われるのも甘んじて受けたいと思うのですが、多分ミステリを500冊も読んでない、そんなに詳しくない私がこの4冊を読んでも真価が分からないと思ったんです。ただ、そろそろ読んでみたいなとは思っています。

ウロボロス偽書』を読む前にも『匣の中の失楽』を読もうかと思ったのですが、『匣』を読んだ人の感想はネット上に溢れていますが、読んでいない人の『ウロボロス』シリーズの感想は少ないのではないか?と思い、『匣』を読む前に読んでみました。

ということで、『ウロボロス偽書』の感想に入りますが、本作は実在する作家がそのままの名前で登場しているのが、まず一つの特徴でしょう。あらすじを引用します。まず上巻は

竹本健治の連載ミステリに、ひそかに忍び込む残虐非道な殺人鬼の手記。連載が回を重ねるにつれ、虚構と現実は、妖しくも過激に昏迷の度を深める。竹本健治綾辻行人友成純一新保博久島田荘司…。ミステリ界を彩る豪華キャストが実名で登場、迷宮譚に花を添える。『匣の中の失楽』と並び賞される傑作。

そして下巻は

竹本が創作したはずの登場人物は現実世界に存在していた!竹本のファンを名乗る少女の正体は?綾辻たちの身辺に現れる黒ずくめの男は?もはや小説は作者の手を離れ、カオスの世界へと落ち込んでいく。そらに現実の竹本のまわりでも次々と事件が起き始めていた。そして妻が消え、また新たな殺人が…。

感想なのですが、言葉にするのがすごく難しいです。最初は複数の物語が並行して進んでいって、これが絡み合って行くのかなと思ったのですが、それは間違いではなかったものの、絡み合い方がメタレベルでの絡み方であり、何が真実で何が嘘なのか?それとも全てが嘘なのか?全てが真実なのか?と、足元が徐々に崩れて行くような感覚でした。

結末も掴み所のないふわふわしたようなもので、アンチミステリらしいな、と大してアンチミステリを読んだこともない私が思っていたのですが、それでも作中作内のトリック芸者パートでの殺人事件はバカミスっぽい趣向になっていてしっかり謎解きもあり、二度楽しめる小説でした。

いや実名で登場した作家さんたちの軽妙な掛け合いもとても面白くて三度美味しい小説だと言った方が正しいかも知れません。

私は一応理系なのでちょっと気になったのですが、「不確定性原理というのは、微粒子などのミクロな物質の場合、位置と運動量を同時に正確に決定することはできず、両者の測定誤差の積は必ず一定の大きさ以上の値を取る」という文章があり、測定誤差が不確定性原理というのは少し不正確かなあと思います。ハイゼンベルク自身は、測定誤差的な意味で述べたらしいのですが、現在は不確定性原理は量子系における根本的な性質であり、測定誤差だけでないことが分かっています。ただ書かれた1991年においては測定誤差と書かれていたのが多い(らしい)です。

また「クォークが単独で発見されていない」という文は単独で取り出せない(クォークの閉じ込め)の方が分かりやすいかもしれません。