深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』感想 - 究極ともいえる多重解決ミステリー

深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』読み終わった。

感想の前にまずはあらすじを書いておく。

嵐で孤立した館で起きた殺人事件!国民的娯楽番組「推理闘技場」に出演したミステリー読みのプロたちが、早い者勝ちで謎解きに挑む。誰もが怪しく思える伏線に満ちた難題の答えは何と15通り!そして番組の裏でも不穏な動きが…。多重解決の究極にしてミステリー・ランキングを席巻した怒涛の傑作!!

多重解決もののミステリーとは、アントニー・バークリーの『毒入りチョコレート事件』を元祖とする一つの謎に対して複数の解決が出てくるミステリーのことだが、多重解決にも2つのタイプがあると思う。

1つはAと推理したが、新しい情報が出てきてAが否定されBと推理するという推理の連鎖があるもの。もう1つは1つの完全に提示された事件に対して、AやBやCといういくつもの解決があるものだ。『ミステリー・アリーナ』は『毒入りチョコレート事件』と同じく前者で、後者には最近の作品では『その可能性はすでに考えた』などがある。

個人的には後者のパターンの方が好き(だし、最初に全てを提示しておかなくてはならないので難易度も高いと読者ながら思う)だが、『ミステリー・アリーナ』は前者にクイズ番組的なガジェットを組み込むことで、先に答えた方が得という推理バトル感がとても楽しい小説になっている。またMCやアシスタントの軽妙な掛け合いが気持ち良く、かと思ったらワトソン役としても最高の仕事をしていて思わず笑ってしまった。(ただMCの発言に作者本人の思想が見え隠れするのはあまり好きではない。深水黎一郎さんのTwitterを見ている人には分かるだろうが。)

もちろんミステリー部分も面白い。ネタバレができないので上手く表現できないが、この回答→問題編→別の人の回答というテレビ番組の仕組みを上手く使った仕掛けがなされている。そして多重解決の1つ1つの解決もかなりアクロバティックで単品としても楽しめるし、次はどんな謎が飛び出すのかとワクワクする。最初の推理がまず、(伏せ字)語り手が犯人という時点で、俄然と期待は高まるというものだ。

本作が気に入った方には早坂吝『虹の歯ブラシ 上木らいち発散』をオススメしたい。本作が発売される前に出版されたエロミステリーだが、似たような趣向が使われている。

ミステリー・アリーナ (講談社文庫)

ミステリー・アリーナ (講談社文庫)

虹の歯ブラシ 上木らいち発散 (講談社文庫)

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