エラリー ・クイーン『エラリー ・クイーンの冒険』感想 - 本格ミステリ短編のお手本

エラリー ・クイーン『エラリー ・クイーンの冒険』読み終わった。

以前から発売されていた短編集なのですが、今回は中村有希の訳で新しく発売されました。今どきの話し言葉に近付いている訳なので読みやすくなっていると思います。

エラリー ・クイーンといえば端正な謎解きの名手で、特に本格ミステリの人気が高い日本では熱狂的なファンも多いです。有栖川有栖や青崎有吾は、端正な謎解きが特徴の作家で平成のエラリー ・クイーンと称されています。クイーンと言えばXYZや国名シリーズなどの長編が有名ですが、短編も上手いなと感じさせてくれる短編集でした。むしろ長編よりも謎の提示とその解答が凝縮されていて純粋にミステリを楽しめます。長編は、シェイクスピアを引用したり日本人には少し馴染みにくい部分もあったりするので、クイーンを読んでみたいと思う方はこの本から入るのがいいかも知れません。

ただ一部にはちょっと荒いなと思う部分もありますし、探偵のエラリー・クイーンが不遜でもったいぶったような探偵像なので、そこの部分でちょっと好きになれない人もいるかもしれませんが、ミステリの部分は文句なく粒揃いでオススメできます。

各短編の感想を。

アフリカ旅商人の冒険(原題:The Adventure of the African Traveler)
3人の生徒とクイーンが推理合戦するという趣向になっている。クイーンのオッカムの剃刀のようなシンプルな推理は切れ味抜群だが、3人の推理も面白い。短編集の中で1番の傑作。

首吊りアクロバットの冒険(原題:The Girl on the Trapeze)
ビジュアルは魅力的なミステリなのだが、犯人がわかりやすすぎるのが欠点か。

一ペニー黒切手の冒険(原題:The One-Penny Black)
謎解きの精緻な論理は目を見張るものがあるが、最後の隠し場所は少し無理がある。むしろ(伏せ字)1枚しか持っていないのに2枚持っているように見せかけていた(伏せ字ここまで)の方が動機的にも面白い。

ひげのある女の冒険(原題:The Sinister Beard)
ダイイングメッセージものだが、流石にこれは犯人が気付くと思う。展開の意外性はあるが…

三人の足の悪い男の冒険(原題:Three Lame Men)
誘拐ものでストーリーの展開が楽しい作品。

見えない恋人の冒険(原題:Four Men Loved a Woman)
こちらも意外な犯人。大半のミステリではこの役回りは犯人から逃れると思うのだが、それを犯人に仕立てる手際が巧み。

チークのたばこ入れの冒険(原題:The Affair of the Gallant Bachelor)
エラリーの用意が周到すぎるのには苦笑。少しなし崩し的に事件が解決してしまうのが物足りないか。

双頭の犬の冒険(原題:The Two-Headed Dog)
犯人が見えやすいが、些細な手がかりを小説に埋め込んでおくのが上手い。有栖川有栖さんの「双頭の悪魔」を思い出しました。

ガラスの丸天井付き時計の冒険(原題:The Glass-Domed Clock)
こちらはこじつけのダイイングメッセージものかと高をくくっていたら、一気にどんでん返しが始まって犯人が絞られるというテクニカルな作品。2番目に好きです。こちらも有栖川有栖さんの「スイス時計の謎」を思い出しました。

七匹の黒猫の冒険(原題:The Black Cats Vanished)
七匹の黒猫の使い方が上手い。犯人はあいつだろと読んでいたが、それよりさらにもう一回伸ばしてくるクイーンのプライドが感じられる。

いかれたお茶会の冒険(原題:The Mad Tea-Party)
不思議の国のアリス」がモチーフの楽しい作品。旧訳版には収録されていません。最後に遊び心のある仕掛けもされていて最後を飾るにふさわしい名作。

大学に犯罪学の講師として招かれたエラリーが、その日起きたばかりの殺人事件について三人の学生と推理を競う「アフリカ旅商人の冒険」を劈頭に、「一ペニー黒切手の冒険」「七匹の黒猫の冒険」「いかれたお茶会の冒険」など、多くの傑作を集めた巨匠クイーンの記念すべき第一短編集。名探偵による謎解きを満喫させる本格ミステリ全11編に加え、初刊時の序文を収録した完全版。