連城三紀彦『六花の印』感想 - ミステリ好きだけでなく恋愛小説好きにもオススメできる短編集

連城三紀彦『六花の印』読み終わった。

連城三紀彦本格ミステリ的な巧みな伏線や逆説的などんでん返しなどを多用しながら、繊細で機微に溢れる情感を描いた作家として有名である。惜しくも2013年に亡くなってしまったが、没後、連城三紀彦がミステリー界で再評価され、様々な短編集や評論が発売されている。特に浅木原忍の「ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド」が2016年に評論・研究部門で本格ミステリ大賞を受賞したときから、一層盛り上がりを見せている。

大胆な仕掛けと巧みに巡らされた伏線、抒情あふれる筆致を融合させて、ふたつとない作家性を確立した名匠・連城三紀彦。三十年以上に亘る作家人生で紡がれた数多の短編群から傑作を選り抜いて全二巻に纏める。第一巻は、幻影城新人賞で華々しい登場から直木賞受賞に至る初期作品十五編を精選。時代を越えて今なお多くの読者を惹き付けて已まない著者の全貌が把握できる傑作集。

今回の『六花の印』は東京創元社の松浦正人氏が編纂した連城三紀彦ベストともいうべき短編集2編のうちの1冊である。デビューから1986年までの短編集が15作まとめられている。確かにどの短編も粒ぞろいで、ミステリーと恋愛模様の融合がなされている作品ばかりで連城三紀彦らしさを十分に味わえるのだが、逆に男女の不倫やヤクザものなど、雰囲気が似ている作品が多く、700ページにも及ぶ分厚さから少し飽きてしまった。

同じ連城三紀彦の短編集だったら、「連城三紀彦 レジェンド 傑作ミステリー集」の1と2の方がよくまとまっていると思う。こちらは誘拐ものや漫才をテーマにしたものだったり、バラエティが豊かで最後まで楽しめる。編集はミステリー作家の綾辻行人伊坂幸太郎小野不由美米澤穂信が選んでいることもあり、ミステリー的にも楽しめる作品が多い。はじめて連城三紀彦に触れるときは、こちらをオススメする。

連城三紀彦 レジェンド 傑作ミステリー集1
依子の日記 / 眼の中の現場 / 桔梗の宿 / 親愛なるエス君へ / 花衣の客 / 母の手紙

連城三紀彦 レジェンド 傑作ミステリー集2
ぼくを見つけて / 菊の塵 / ゴースト・トレイン / 白蘭 / 他人たち / 夜の自画像

ただ本作はエッセイも収録されている。連城三紀彦という作家の過去が知れて作者のファンには堪らない特典だろう。それでは再読も含む各短編の感想を簡単に。

六花の印
表題作。過去と現在の2つの時間軸がどのようにリンクするのかが楽しく読めた。ミステリーとしても大胆で本格らしい短編。

菊の塵
明治天皇崩御乃木希典の殉死という史実のできごとが作中の事件と密接に関係しあい、一人の退役軍人の夫に対する妻の思いが描かれている。

桔梗の宿
桔梗の花を握った2つの死体が導く犯人の動機が意外な短編だが、これは今読むと新鮮さが薄いかもしれない。

桐の柩
意図のわからない殺しをさせられた主人公が、なぜ殺しをさせられたのかというワイダニット。最初は誰を殺したのかが気になり、次はなぜ殺したのかが気になる。そして最後に控える逆説的解決が鮮やか。

能師の妻
ミステリーとしてはあまり美しくはない。ただただ登場人物の篠がとにかく嫌いになってしまいあまり好きではない短編。

ベイ・シティに死す
裏切られたヤクザの復讐劇。やりきれない救いのない結末が印象的。

黒髪
構図の反転が強烈。共犯者とはどういう意味なのか、そして不倫相手に謎の粉薬を渡された主人公がどうそれを使うのかのサスペンスもハラハラさせられる。

花虐の賦
これも結末のどんでん返しが素晴らしい。最後には溜飲の下がる思いがした。男女の執念とも思える思惑が無理なく絡み合い、一見謎ではない魅力的な謎が作り上げられている。

紙の鳥は青ざめて
こちらも大胆な構図の反転。軍平の愚直な性格にも愛おしくなれる。名探偵軍平シリーズは他には「運命の八分休符」で読める。

紅き唇
ミステリーとしてよりも恋愛小説として面白い。義母のいじましいまでの好きな人に対する想いに不覚にも可愛らしいと思ってしまう。

恋文
直木賞受賞作。小説自体は流石に面白い。面白いんだけど、直木賞は旧態依然としたジジババばかりが審査しているのでミステリーが評価されにくい。この作品はミステリー要素がないわけではないが、かなり抑えていてこのくらいが限界なんだろうなあと悲しくなる。

裏町
こちらもヤクザもの。萩江の後悔が心に沁みる。

青葉
小説的すぎるかもしれないが、姑にいじめられている女性に一度読んでみてほしい。

敷居ぎわ
母に似た娘の話。母に似ているというのが結末に望みを与えている。

俺ンちの兎クン
面白かったが、父親と子供が両成敗となってしまったところが少し残念。これはダメな父親が子供にやり込められたままの方が私は好きだった。