白井智之『東京結合人間』感想 - グロテスクなほど緻密に計算された特殊設定本格ミステリー

白井智之『東京結合人間』読み終わった。

白井智之は処女作となる『人間の顔は食べづらい』が第34回横溝正史ミステリ大賞の最終候補となり道尾秀介有栖川有栖の激賞を受けてデビューした作家である。作風はエロありグロテスクありの非常に露悪的な文章が特徴だが、同時にとにかく精緻な本格ミステリー作家であり、綾辻行人からは「鬼畜系特殊設定パズラー」と名付けられている。

前作の『人間の顔は食べづらい』は自分のクローンを食べてもよいとなった社会が舞台のテーマで、それは気持ち悪くなるような描写が山ほどあったが、本作はそれにもまして最初からぶっ飛ばし過ぎである。書き出しが「大樹の締まった肛門に、千果の人差し指がゆっくり押し入ってきた。」である。ここでもう、うわっとなった方はこの小説を読まないほうがいい(もしかしたらこの感想も読まないほうがいいかもしれない)。ここからはもっと凄惨で厭らしい描写が満載だからだ。

『東京結合人間』は肛門に頭を突っ込むことで2人が合体するという設定のミステリーである。だが前半の「少女を売る」では、その設定とあまり関係がなく、少女の売春を行なっている寺田ハウスという組織によって監禁されている女性が、なぜ「新しく、友達が欲しいです」と言ったのかというワイダニットになっている。

この前半では、そのミステリーに加えて小説舞台の説明がなされ、合体した後の2人の中で特異的に、嘘がつけない「オネストマン」と呼ばれる人間が発生することがあることや、羊歯病という性感染症が小説世界に蔓延していることなどが述べられる。

「少女を売る」だけでもミステリーとしてよく練り上げられた短編になっているのだが、圧巻は後半の「正直者の島」だ。こちらは、エログロ描写は鳴りを潜め孤島で殺人事件が発生する、いわゆる孤島もののミステリーが展開していく。ただしもちろん登場人物は結合人間であり、さらにオネストマンのみが集められたという設定になっている。登場人物及び読者は、誰が殺したか?という謎と、そして誰がオネストマンではない(ノーマルマン)か?という2つの謎に直面する。

謎解きは100ページにも及ぶ大迫力の推理合戦で、推理発表→それの否定を繰り返し二転三転しながら真相に辿り着いていく。私が素晴らしいトリックだなと思ったのは、誰がオネストマンか?を決定するシーンで、嘘をつけないという条件で誰が嘘をついているか?というミステリーは多くあるが、私が読んだ中で一番シンプルで華麗な解決だった。

そしてそれだけに留まらず、もう一回ひっくり返す構成力の高さに唖然とさせられる。「少女を売る」の内容も含めて、全ての文章が伏線になっているこの小説から作者の熱意が感じられ、傑作以外の言葉が見つからない。一気に読んでしまった。面白かった『人間の顔は食べづらい』よりも面白い。

ただ、どうしても人は選ぶミステリーなのは確実で、最初でリタイアしてしまう人もいるだろう。頑張って読んで欲しいと思うのだが無理強いはできない。でも絶対面白い小説だということは保証する。

東京結合人間 (角川文庫)

東京結合人間 (角川文庫)

生殖のために男女が身体を結合させ「結合人間」となる世界。結合の過程で一切嘘が吐けない「オネストマン」となった圷は、高額な報酬に惹かれ、オネストマン7人が孤島で共同生活を送るドキュメンタリー映画に参加する。しかし、道中で撮影クルーは姿を消し、孤島の住人父娘は翌朝死体で発見された。容疑者となった7人は正直者のはずだが、なぜか全員が犯行を否定し…!?特殊設定ミステリの鬼才が放つ、狂気の推理合戦開幕!