彩坂美月『夏の王国で目覚めない』感想 - ミステリーというよりもジュブナイル小説

彩坂美月『夏の王国で目覚めない』読み終わった。

謎の作家である三島加深に惹かれていた高校生の美咲は加深のファンサイトでジョーカーという管理人に、加深の未発表原稿を争奪するミステリーツアーに参加しないかと誘われる。そして「架空遊戯」というミステリー劇の登場人物を演じることになった美咲に、様々な不可解なできごとが襲いかかるというミステリー小説である。

第12回本格ミステリ大賞の候補となったが、正直言えばあまりミステリーとしては出来がいいとは思わなかった。その年に本格ミステリ大賞を受賞したのは、「虚構推理」と「開かせていただき光栄です」。そして大賞を受賞できなかった作品は他に「キングを探せ」「メルカトルかく語りき」である。「虚構推理」や「メルカトルかく語りき」のような本格ミステリ史に残る名作たちと肩を並べたのが不幸だったとしか言いようがない。これに比肩するものを期待して読んでしまった。

帯にもクリスティの「そして誰もいなくなった」や「オリエント急行の殺人」の新訳というような感じで書かれているが、流石に言い過ぎだろう。ミステリーとしては予想しやすいし、結末の意外性も乏しかった。論理展開にも甘さが見える。むしろ読み応えがあるとすればジュブナイル小説としてで、そちらが好きな人には勧められる。同作者の「少女は夏に閉ざされる」も読んだことがあるが、やはりミステリー要素よりも少女の青春要素の方が印象的だった。

例えるとすれば、辻村深月の初期の作品に似てると思う。ペンネームの美月も彼女から取っているのではないかと想像している。2013年にTwitterで書いた「少女は夏に閉ざされる」の感想でも「内容、構成ともに辻村深月っぽい。」と書いていた。辻村さんの初期の作品もミステリー半分、少女群像劇半分といった感じで、どっち付かずな感じが私の好みではなかったがそういう雰囲気を本作からも受けた。

本人はホラーが書きたいらしいが、商業的にミステリーの注文が多くミステリーを書いているらしい。私は2作を読んだ限りでは、ホラーの方が向いているのではないかと思う。小説という媒体に拘らなければ一番向いているのはアニメや映画の脚本だと思っているのだが、まあそれは私が考えることでもない。

少し批判をしてしまったが、私の評価軸と他の人の評価軸は異なる。少女群像劇という点で読めば面白い小説だし、それの隠し味でミステリーも付いているのだからお得な小説なのは間違いないだろう。

再婚の父に新しい母と弟。私だけが家族になりきれてない…高校生の美咲は寂しさを埋めるため正体不明の作家・三島加深の小説に熱中していた。ある日、加深関連のサイトで“ジョーカー”という人物に「ミステリツアーに参加して謎を解けば加深の未発表作を贈る」と誘われる。家を出て三日間のツアーに飛び込む美咲だが―参加者の消失、死体、さらに…これは少女が経験した、二度と来ないひと夏のクローズドサークル