倉知淳『片桐大三郎とXYZの悲劇』感想 - ドルリー・レーンのオマージュだが推理部分が…

倉知淳『片桐大三郎とXYZの悲劇』読み終わった。

※ 各短編の感想には本作および「レーン四部作」のネタバレを含んでいます。注意してください。

タイトルから分かるようにエラリー ・クイーンの『ドルリー・レーン四部作』(「Xの悲劇」「Yの悲劇」「Zの悲劇」「レーン最後の事件」)が下敷きにあるミステリー。ドルリー・レーンは元著名な俳優だったが聴覚を失ったために引退し、隠居した後はサム警視のブレーンとして警察の捜査に協力する名探偵である。本作の片桐大三郎も日本の著名な時代劇俳優で、聴覚を失ったため引退し、趣味で警察の捜査の手伝いをしているというジャパナイズされたレーンとも言うべき名探偵キャラクターになっている。

4編の短編もレーン四部作のオマージュとなっており、いくつかの設定を4作から拝借している。本作を読む前には是非レーン四部作を読んでおくと楽しめると思う。とは言いつつも私も結構昔に読んだっきりで、あんまり内容を覚えていないのだが。本作を読みながら、そういやこんな話だったっけと思い起こしながら読んだ。

クイーンといえば緻密な論理が特徴的な作家だが、この作品では推理部分の論理が些か粗い。一読しただけで明らかに変なところもあるし、これは無理じゃないか?と思うようなトリックもある。XYZの冠を掲げて、これでは肩透かし、という印象が強い。2015年の「このミステリーがすごい!」7位、「本格ミステリ・ベスト10」2位、「週刊文春ミステリーベスト10」6位と輝かしい受賞歴があるが、XYZのオマージュというところが評価されているだけで、ミステリー部分はそこまででは、と思ってしまった。選評は読んでないが。

では各短編の感想をネタバレありで。

冬の章 ぎゅうぎゅう詰めの殺意
満員電車の中でニコチンを投与されるという事件だが、これは「Xの悲劇」の満員の電車内でニコチンを針に塗って刺すという殺人事件と同じ構図である。コートの状態が入り乱れる緻密な論理の印象を受けるが、流石に後からコートとシャツの針の穴が一直線になるように刺すのは極めて難しい。

春の章 極めて陽気で呑気な凶器
なぜ犯人はウクレレを武器に使ったのかという謎。「Yの悲劇」ではなぜマンドリンを武器に使ったのかという謎が提示されている。「Y」では意外な犯人だったが、こちらは意外でもなんでもない。というか推理がおかしい。久川里美の「物置部屋に行くとは告げなかった」という証言を前提におきつつ、誰も物置部屋に入らなかったはずだから物置小屋で殺されたのではないと言っている。そうであれば最初から久川里美の証言は偽証で、久川里美は物置小屋に被害者がいることを知って入ったのだとする方が、論理的にスムーズでありそのことを考慮しないとおかしい。

犯人が久川だとしてもウクレレを武器として使った謎が残る。しかしウクレレを使うのは不合理なので久川里美の「物置小屋に行くとは告げなかった」という証言は本当だろうという推測があって、それを解決するためには他の部屋で殺したとするのが綺麗な流れだと思う。(ただ久川証言が偽証のままでも久川里美が誰かに「被害者は物置小屋にいる」と告げた人がいてその人を庇っている可能性が出てくるが。その場合ウクレレは捜査の撹乱のためだろう。)

夏の章 途切れ途切れの誘拐
途切れ途切れのメッセージは「Zの悲劇」のオマージュだろうか。赤ちゃんを凶器に使ったのを隠蔽するために誘拐事件を企てたというのは面白いが、結局2人殺しの罪を受ける羽目になるんだから最初からちゃっちゃと逃げればいいというのは野暮な感想なのでしょうか。また携帯電話を手に入れるために鞄を漁らなかったのは特に不自然だとも思えない。

冬の章 片桐大三郎最後の季節
「レーン最後の事件」をかなり踏襲している短編。幻の台本が消える謎も大仕掛けもすごく分かりやすい伏線になっているので途中で気付いてしまった。これをやるには流石に助走が長すぎたような感じがする。

聴覚を失ったことをきっかけに引退した時代劇の大スター、片桐大三郎。古希を過ぎても聴力以外は元気極まりない大三郎は、その知名度を利用して、探偵趣味に邁進する。あとに続くのは彼の「耳」を務める野々瀬乃枝。今日も文句を言いつつ、スターじいさんのあとを追う!