木元哉多『閻魔堂沙羅の推理奇譚 業火のワイダニット』感想 - 沙羅シリーズ第3弾

木元哉多『閻魔堂沙羅の推理奇譚 業火のワイダニット』読み終わった。

死後の世界で、自分が殺された理由など生前に起きた謎を解明して正解すれば生き返ることができるという『閻魔堂沙羅』シリーズの第3弾。毎シーズン刊行されており刊行ペースが早く、現在59しか記事のないこのブログでも3記事がこのシリーズの感想記事になっている。ちなみに冬にも第4弾が発売されるとのこと。過去のシリーズの感想はこちらから。

閻魔堂沙羅の推理奇譚 負け犬たちの密室
閻魔堂沙羅の推理奇譚

刊行ペースが早いせいかミステリー的には非常に小粒で先行例の焼き直しのようなトリックが多いなという印象。ただそのトリックの料理の仕方は、設定を巧く使っている。またこの小説は、トリックそのものよりも生き返った後のハートフルだったりブラックだったりする登場人物の生き方を味わうのが正しい読み方なのかなあと思う。ミステリーを読んだことない人も沙羅のキャラクターも可愛いしとっつきやすい。講談社タイガのような半分ライトノベルのレーベルで刊行されるには相応しいかもしれない*1

ネタバレなしで各短編の内容を説明すると

外園聖蘭 30歳 契約社員 死因・?
ブスのせいで何もかも上手くいかない女性がどういう方法で殺されたか、誰になぜ殺されたのかの謎。

仙波虎 78歳 無職 死因・転落死
遠山賢斗 11歳 小学生 死因・溺死
なぜ賢斗の死体は移動したのか、なぜ裸足だったのか、そして虎は誰に突き落とされたかの謎。

土田裕太 19歳 浪人生 死因・焼死
唯一の友人と思っていた男になぜ焼死させられたのかの謎。

ここからは各短編の感想をネタバレありで。

「僕を殺したのは、たった一人の友だちなのか?」天涯孤独の土田は大学受験を前に、友人の夏目の家で焼死した。夏目は酷薄で人を殺してもおかしくない人間だ。僕には生きる目的もないし死んでやってもいい。でも、僕を殺した理由はなんだ?死亡した土田の前に現れたのは、閻魔大王の娘・沙羅だった。今回の謎はワイダニット。もう一度友人と話すため、霊界の推理ゲーム開廷!


外園聖蘭 30歳 契約社員 死因・?
伏線があからさまなので謎自体はただ読んでるだけですぐに分かる。最後のお笑い芸人になるというのはどうなんだろうか…前向きで明るい結末ですが、ブスやブサイクは芸人くらいにしかなれないんやと言われているようでつらい。

仙波虎 78歳 無職 死因・転落死
遠山賢斗 11歳 小学生 死因・溺死
ミステリーとしては3編の中では最も練られている。死後の状況を沙羅が教えることはできないので探偵役が分からないという設定が、このトリックを分かりにくくしている。なぜなら死体が消えたとなれば入れ替わりトリックを疑うのは常套手段だから。そこを明示しないで推理させるというところに面白味がある。ただ、政権批判っぽい内容が数ページにも渡って書いてあるのは、これは作者の主張なのかただのページ稼ぎか分からないが少し冗長。G7の首脳陣を答えるシーンで、トランプ大統領メルケル首相、と言っているのに安倍だけ呼び捨てだったのは笑った。

土田裕太 19歳 浪人生 死因・焼死
これも第2話と同じで、焼死後の死体の状況が分からないためトリックを看破しにくい。理由は同様に顔のない死体があったら入れ替わりを疑うのが普通だから。もしこのミステリが死体発見後に探偵が捜査に乗り出す普通のミステリーだったら5秒で即解決だろう。生き返った後の綺麗な終わり方で巻末の短編に相応しい。

*1:ただ講談社タイガの最初の理念とは違うかもしれないが