ポール・アルテ『第四の扉』感想 - フランスの端正な本格ミステリー

ポール・アルテ『第四の扉』読み終わった。

謎と驚異の代わりに暴力とセックスが跋扈するこの時代に背を向け、謎解きの名に値する小説を書き続けている作家。本格ミステリを守る最後の砦なのだと申し上げましょう。

これは作中に登場する作家に当てられた台詞の一部だが、ポール・アルテ自身のことを言っているといっても差し支えないだろう。ポール・アルテはジョン・ディクスン・カーを敬愛するフランスの本格ミステリー作家である。

私は翻訳された海外ミステリはあまり読まない。それは翻訳された文章が読みにくいのが一番の理由なのだけど、もう一つはミステリーがいわゆる社会派ミステリーばかりで有名な本格作品は古典ばかりだからである。その古典も大して読んだことがない。精々でよく名前の上がるような本だけで、正直に言えば『オリエント急行の殺人』すら読んだことがない(免罪符じゃないが、ミステリー作家で古今東西あらゆるミステリーを読んでいると思われる北村薫さんも読んだことがないと言っていた記憶がある)。

しかしこのポール・アルテ本格ミステリ作家だという。解説が麻耶雄嵩さんということもあって購入した。読んでみると確かに本格ミステリだった。ギデオン・フェル博士を彷彿とさせる名探偵ツイスト博士が登場し、快刀乱麻に謎を解明する。超常現象にマジシャンなど本格らしいガジェットが惜しげも無く登場し、結末に向かって二転三転する仕掛けも本格への拘りを感じさせる。

ただ1987年に発表された作品とだけなのもあるが、古くささは否めない。また同時期に発売した「十角館の殺人」など古典的本格ミステリの延長上にあって新しい世界観を感じさせる名作と比べると、トリックの部分などでは古典的本格ミステリをなぞった作品に留まっているように思う。それは、そもそもアルテが筆をとったのが、カーの作品の続きを書きたいという情熱からだからかもしれない。

多彩な仕掛けでどこに向かうか分からない新本格ミステリはやっぱり日本が最先端だなと改めて感じさせられたし、「十角館の殺人」の存在が大きかったのだなと(私は発売当時を知らないが)思わされた。

第四の扉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

第四の扉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

密室で夫人が自殺して以来、奇怪な噂の絶えないダーンリーの屋敷。幽霊が歩き回るというこの家に移り住んできた霊能者の夫妻は、関係者を集めて交霊実験を試みる―それは新たな事件の幕開けだった。死体を担ぐ人影。別の場所で同時に目撃された男。そして呪われた部屋に再び死体が現れる…奇術のごとく繰り出される謎また謎!各探偵の語る最後の一行が読者にとどめを刺す!フランス本格推理の歴史的傑作。