沢村浩輔『海賊島の殺人』感想 - 少年漫画風海賊物語と孤島ものミステリーの合体

沢村浩輔『海賊島の殺人』読み終わった。

前作の『夜の床屋』が大ヒットした沢村浩輔の長編ミステリー。文庫化によって『北半球の南十字星』から改題された。長編とは言ったものの前半と後半で少し読み口が異なる。

前半は『ONE PIECE』のような少年漫画風の軽い海賊物語になっている。キャラクター紹介を兼ねながら、<南十字星>という海賊集団の船長のエピソードが並べられ、主人公の軍人のアラン・クリフォードが間諜として海賊に一味に加わることになった経緯が語られる。そして<南十字星>首魁のアルバート・リスターが海軍のバロウズ提督を誘拐し、取引を持ちかける。そして後半は、バロウズ提督を監禁している孤島で連続殺人事件が発生して、アランがその犯人を突き止めるというミステリーへと転換する。

あらすじを書くと面白そうだが、本音で言えば微妙な出来だった。ミステリーとしては、いきなり登場人物の数人が容疑外となり、殺人がバタバタと起きたと思ったら特に推理することなく犯人が判明し、後付けの推測によって全ての真相が解明される。帯や解説には本格ミステリーと書かれているが、これは少なくとも本格ではないだろう。時系列的におかしい部分もある*1 (注釈ネタバレあり)し、そもそも動機がおかしい*2 (注釈ネタバレあり)。むしろ捨てトリックの方がよく出来ている。この捨てトリックで短編を作って欲しかった。

一方で海賊物語としても、浴びるように酒を飲んだり異常に喧嘩っ早かったりやけにステレオタイプな海賊像が連呼され、週刊少年ジャンプに連載されていたら10週ほどで飽きてしまう描写の薄さだった。文章も軽く、緊迫感が感じられない(豪放な海賊らしいと言えばらしいが…)。

この小説は創元推理ではなくライトノベルレーベル向けだと思う(別に創元>ライトノベルだと言っているわけではない)。5巻から10巻ほどの分量を使って、各海賊の生涯を描きつつキャラクターを掘り下げながら、最終巻でバロウズ提督との最終決戦を描くべきだったし、その方が面白くなったと思う。登場人物も多すぎるし、死体が転がるのも半分を過ぎたあたりで400ページ弱で書き切るにはあまりに詰め込みすぎている。海賊小説なのかミステリーなのかどっち付かずの中途半端になってしまった。

海軍提督バロウズ卿が、“王国”周辺の海域を荒らす海賊連合“南十字星”を率いる謎の男リスターに誘拐された。提督救出の密命を受け、“南十字星”へ潜入したアラン・クリフォード大尉は、海賊たちの拠点の島で殺人事件に遭遇する。リスターに指名されて犯人捜しに乗りだしたアランだが、海賊たちは次々と殺されてゆく。若き大尉は己の剣と推理によって事件を解決できるのか?

海賊島の殺人 (創元推理文庫)

海賊島の殺人 (創元推理文庫)

*1:エドモンドが接触したのはリスターの引き金と言っているが、接触した時点でまだハンクの息子という設定が作られてなかった。むしろこの話の流れならソープが黒幕だろう。

*2:バロウズはわざわざ誘拐を企てる必要がない。財宝を手放すつもりがあるなら最初から証拠隠滅すればいい。