我孫子武丸『8の殺人』感想 - ユーモアの中にも本格推理作家としての気概を感じるデビュー作

我孫子武丸『8の殺人』読み終わった。

ゲーム『かまいたちの夜』のシナリオや『殺戮にいたる病』などが有名な我孫子武丸さんだけど、私が好きなのは、ユーモアマシマシの速水三兄弟シリーズである。本作の『8の殺人』は蜂が大好きな社長の建築した8の字の建物で、ボウガンで射殺されるという事件が起こり、それを三兄弟が推理するというミステリーとなっている。

『殺戮にいたる病』のようなエログロ満載の小説を最初に読んでいると、我孫子武丸さんってこういう小説も書くんだと思うかもしれない。作品の中はギャグやユーモアでこれでもかと埋め尽くされている。文章も読みやすく軽い読み口で、ゆっくり読んでも数時間で読めるだろう。

ミステリーとしては些か推理しやすいトリックが使われている。本格が好きな人なら気付くと思う。しかしながら、そのトリックをこんな風に使ってしまうなんて。まさにユーモアのために創り上げられた本格ミステリー小説である。文庫版解説の田中啓文さんが書いている。

本文庫にも収録されている島田荘司氏の解説には、
「この物語は一応ユーモア小説の体裁をとっているが、むろん優れた本格物である」
という文章があるが、これはもちろんミスプリントである。今回の新装版でも直っていないのは講談社文庫の不手際ではないのか。もちろん正しくは、
「この物語は一応本格物の体裁をとっているが、むろん優れたユーモア小説である」
である。

笑ってしまった。確かにその通りかもしれない。ただユーモアとミステリーが分離されているのならともかく、ユーモアに資するミステリーは難しいだろう。それをデビュー作である一定のレベルまで成し遂げているのは驚異的である。

しかしながらユーモア小説とは言うものの、我孫子武丸さんの本格に対する熱意は強く感じる。それは過去作を多数引用していたり、密室講義を「ユーモアなしで」始めたりすることから明らかである。とはいえこの部分だけ急に真面目になるのもシュールなのかもしれないが。

本作も面白いが、シリーズ続編の『0の殺人』は傑作ユーモアミステリーとなっている。是非読んで欲しいが『0の殺人』は絶版で手に入りにくいのが残念だ。

新装版 8の殺人 (講談社文庫)

新装版 8の殺人 (講談社文庫)

建物の内部にある中庭が渡り廊下で結ばれた、通称“8の字屋敷”で起きたボウガンによる連続殺人。最初の犠牲者は鍵を掛け人が寝ていた部屋から撃たれ、二人目は密室のドアの内側に磔に。速水警部補が推理マニアの弟、妹とともにその難解な謎に挑戦する、デビュー作にして傑作の誉れ高い長編ミステリー。