アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』感想 - 古風なミステリーと現代的なミステリーの融合

アンソニーホロヴィッツカササギ殺人事件』(原題:The Magpie Murders)読み終わった。

作者のアンソニーホロヴィッツはシャーロックホームズシリーズの公式続編を手掛けたり、007シリーズの続編も手掛けたりと、イギリスを代表するミステリー作家であるらしい。らしいというのは、作者の本をはじめて読んだからだ。

本作の『カササギ殺人事件』は上巻では、アラン・コンウェイという売れっ子作家が書いたミステリーが作中作として書かれている。そこではクリスティのような(と書いてあるがこれはあんまりよく分からなかった。翻訳だから仕方ないが。)古き良きミステリーとなっている。一方で、下巻ではそのアラン・コンウェイが何者かに殺され、アランの編集者であるスーザンが探偵となりアランの死の謎を探るというフーダニットとなっている。

上巻は古風なミステリーで下巻は現代的なミステリーとなっており、一冊で二度美味しいのは当然だが、作中作ももちろん下巻の謎に関係していて、その融合が巧みだ。上巻と下巻の差を大きくするためだろうか、下巻にはあえてiPhoneスターバックスなど現代を代表するガジェットが多数登場しているし、スーザンもアランの小説の一読者で探偵のような超人的な能力は持っていないというのも、なんだか自分が探偵になったみたいで没入感がある

ミステリとは、真実をめぐる物語である ―それ以上のものでもないし、それ以下のものでもない。

本文中にこうある通り、そういうミステリーを求めて力を尽くした小説であることには間違いない。

そしてトリックも小説媒体では珍しい視覚的なトリックを使っていたりして新鮮だった。ちょっと推測が過ぎる部分もあるが端正。ただ端正なのだけど、日本の尖りに尖った本格ミステリーに比べると衝撃は少ないかもしれない。「21世紀に翻訳されたミステリーの最高峰」という翻訳者の売り文句は、私は翻訳ミステリーを大して読まないので正しいかどうかを評価できないが、やっぱり歪なまでに進化した日本の本格ミステリーが好きだなあと改めて感じた。まあそれはこの本に限らず、海外ミステリを読んだ後に毎回思うことだが、今回もそれは変わらなかった。

でも面白かった。横文字の名前が通常のミステリーの2倍登場してくるのには参ったが、翻訳もののミステリーにしては読みやすく、最後までダレることなく読めた。英語を使った言葉遊びがあるのだが、これが翻訳ではあまり伝えることができないのも残念。原著で読める人は原著で読んだ方がいいだろう。

カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

1955年7月、サマセット州にあるパイ屋敷の家政婦の葬儀が、しめやかに執りおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは…。その死は、小さな村の人間関係に少しずつひびを入れていく。余命わずかな名探偵アティカス・ピュントの推理は―。アガサ・クリスティへの愛に満ちた完璧なるオマージュ・ミステリ!

名探偵アティカス・ピュントのシリーズ最新作『カササギ殺人事件』の原稿を結末部分まで読んだ編集者のわたしは、あまりのことに激怒する。ミステリを読んでいて、こんなに腹立たしいことってある?原因を突きとめられず、さらに憤りを募らせるわたしを待っていたのは、予想もしない事態だった―。ミステリ界のトップランナーが贈る、全ミステリファンへの最高のプレゼント!