石持浅海『二千回の殺人』感想 - 商業施設でのテロを題材にしたクライムサスペンス

石持浅海『二千回の殺人』読み終わった。

※ 少しだけネタバレを含むので注意。しかしミステリーではないので、記事を読んでも小説の価値は失われないものと思う。

文庫化によって改題されているので注意。原題は『凪の司祭』。石持浅海と言えば、特殊環境における本格ミステリーや論理的なディスカッションに定評のある作家であり、私も好きなミステリー作家のひとりなのだが、本作は無差別テロを扱ったクライムサスペンスホラーである。とはいえ、石持浅海はデビュー作『アイルランドの薔薇』や代表作『月の扉』もテロリズムをテーマにしているので、その点では石持作品らしい小説にはなっている。

本作は、若い女性が、ある動機から汐留の商業施設で2000人以上の無辜な人々をトリコテセン・マイコトキシンという生物兵器で一人ずつ殺戮していくというテロを計画し、それを実行する様子が淡々と書かれている。成すすべのない警察や消防隊、警備員の懊悩や、なんの罪もない民間人が無念にも殺されていく描写には、気分が悪くなる人も多いと思う。例えれば、貴志祐介悪の教典』のような小説と言えば分かりやすいだろうか。

個人的には、やはり本格ミステリーを期待していただけに、ただただ人が殺されていくだけという展開に冗長さを感じた。帯に巨大な密室殺人と書かれているが、別に密室でもないし、殆ど詐欺に近いと思う。密室殺人と聞いて食指が動くような人が好むような物語ではない。また同じことを一人称が変わると何度も繰り返していて、それも冗長さの大きな要因になっている。被害者の視点は、事態の異常さと凄惨さを際立たせる役割はあるが、もっと端的に書いて欲しかった。

ちなみに動機に関して、Amazonレビューなどでは、あまりに意味不明すぎると書いているものも多いが、これは石持浅海の作品の特徴でもあり、あまり深く考えてはいけない。石持作品の動機は「テロリストの論理」とも言われ、基本的に一般人には理解しがたい。例えばアメリ同時多発テロの犯人の動機は、日本人にとって全く理解しがたいだろう。テロリストなんてものは確信犯的であり、それ以外の人には馬鹿らしく思えるようなものなのだ。

ところでこの作中で描かれているテロ計画だが、まず成功しないだろう。トリコテセンを個人でそんなに大量に抽出することは不可能だし、途中で普通に一般人に反撃されて終わる。この作品はひとりずつ始末していくのが目的になっているが、それに拘らなければもっと恐ろしいテロはいくつも存在する。人間社会は脆弱な土台の上に成り立っているものだと感じずにはいられない小説だった

二千回の殺人 (幻冬舎文庫)

二千回の殺人 (幻冬舎文庫)

不可抗力の事故で最愛の恋人を失った篠崎百代。彼女は復讐の為に、汐留のショッピングモールで無差別殺人を決意する。触れただけで死に至る最悪の生物兵器“カビ毒”を使い、殺戮をくりかえす百代。苦しみながら斃れていく者、逃げ惑う者、パニックがパニックを呼び、現場は地獄絵図と化す―。過去最大の密室で起こった、史上最凶の殺人劇。